2016年11月10日木曜日

喀痰の色は診断に有用?

外来診療をしていると、患者さんが 「黄色い痰が出ている」 とか、「痰が緑色でした」 という理由で抗生剤を希望される場合があります。白血球分画を色分けできないように、喀痰の色で細菌性かどうかは判断できないと説明してきましたが・・・
そこで、今回は喀痰の色のお話し。


教科書的には・・・

原因菌ないしは疾患名
痰の特徴
肺炎球菌性肺炎
鉄さび色ないしは黄色粘稠痰
Klebsiella pneumoniae
褐色調
Haemophilus influenzae
黄色
Pseudomonas aeruginosa
緑色
Bacteroides fragilis
膿性(腐敗臭)
肺吸虫症
暗褐色、血性

このように習いました。
「 緑色の痰なので緑膿菌が原因 」 だなんて、すごくわかりやすい。
これならグラム染色や培養も不要・・・というようなわけには行くはずもありません。
おまけに膿性の鼻汁や喀痰はウイルス感染症でもよく見られ、膿性であることが細菌の存在を示すものでないことはご承知の通りです。


慢性呼吸器疾患がない場合
喀痰の色と細菌感染との関連性を見出すことはできません。

急性咳嗽の患者での黄色ないしは緑色の喀痰は、細菌感染症の診断に対して、
sensitivity 0.79 (95% CI 0.63-0.94)
specificity 0.46 (95% CI 0.038-0.53)
positive predictive value 16% (95% CI 13%-18%)
という前向きコホート研究があります。
Altiner A, et al. Sputum colour for diagnosis of a bacterial infection in patients with acute cough. Scand J Prim Health Care. 2009; 27(2): 70–73.


慢性呼吸器疾患患者の場合
急性増悪時の緑色ないしは黄色の喀痰は、細菌感染との関連が示唆されるようです。

慢性気管支炎の急性増悪4089例を対象とした後ろ向きコホート分析によると、喀痰培養とグラム染色による病原菌陽性率は46.4%であり、培養が陽性であった喀痰は、緑色(58.9%)、黄色(45.5%)、さび色(39%)、透明(18%)であった。細菌感染の予測として、緑ないしは黄色の喀痰は感度94.7%だが、特異度は15%と低い。
Miravitlles M, et al. Sputum colour and bacteria in chronic bronchitis exacerbations: a pooled analysis. Eur Respir J. 2012 Jun;39(6):1354-60.


そもそも論・・・Mandell大先生によると
市中肺炎の入院患者においても、40-60%は喀痰が得られず、仮に得られたとしてもそのうちの40-60%は口腔咽頭の常在菌の混入のため、検体として不適切と判断される。また多くの患者が、検査前にすでに抗生剤を投与されており、診断率を下げる大きな要因となっている。
感度、特異度に関する問題はさておき、喀痰検査・培養が肺炎をはじめとした呼吸器感染症の臨床検査の主流であることに変わりはない。非侵襲的かつ簡便であり、適切な条件下で行えば診断的にも経験的治療にも助けとなるのが喀痰グラム染色、喀痰培養検査であることを再確認したい。
Principles and Practice of Infectious Diseases Eighth Edition


~流儀~
「喀痰の色」のみで細菌感染症と判断するには根拠が乏しく、喀痰の性状、量、平時からの変化に加え、基礎疾患の有無やそのほかの身体所見など総合的に判断することが肝要である。