2017年2月11日土曜日

機能性便秘の診断と治療;RomeⅣ

ノロウイルス腸炎など、下痢で来院される方が多くなるこの時期
消化の良いものを食べて、水分摂取をしっかりと
そして整腸剤

これは良しとして、
先日のカンファレンスで「便秘に整腸剤」を使うのがよい・・・と。
慢性便秘、機能性便秘に整腸剤が良い?
こんな時は「Web」とばかりに検索してみると、何とも根拠の不明なものばかり・・・

便秘にもいろいろ分類があるが、腸蠕動が消失して腸管腔が拡大しているような弛緩性便秘に整腸剤を用いると、むしろ腸内容が増えて腹部の張りや膨満感を強くするのではないか?!
そもそも整腸剤に期待する効果は・・・dysbiosis対策? これって便秘予防ならまだしも、完成した便秘に果たして効果的だろうか?
「使っても問題ない」というのと「効果がある」ということは当然異なるわけで、果たして積極的に使用すべき根拠があるのか・・・?
加えて、日常的に処方している緩下剤についても医学的根拠はどうなのか・・・(実感としては十分効果があるとは思われるが・・・)。

そこで、便秘にまつわるevidenceを。
敵を知らずして戦えず、というわけで、まずは「便」の話から。

そもそも「便」とは?
地域性や食習慣などによる違いが大きいことは想像に難くなく、諸説あるようだが、概ね水分が70-80%で、固形分の内訳は食事由来が1/3、脱落した粘膜や腸管壁の代謝物が1/3、腸内細菌(死菌・生菌)が1/3というのが有力。食事をしていない、つまり絶食中の入院患者でも便は出るということ。


便秘の定義
便秘とは?実は統一された定義はなく、学会によってもまちまち。
一般的に臨床研究などで国際的にも最もよく用いられているのがRome基準である。2016年に改訂されたが、機能性便秘については、これまでのRomeⅢと概ね変わっていない。RomeⅣ基準を示す。

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1.次の2つ以上の項目を満たすこと
a. 排便の25パーセント以上にいきみがある
b. 排便の25パーセント以上に兎糞状便あるいは硬便(BSFS*1-2)
c. 排便の25パーセント以上に残便感
d. 排便の25パーセント以上に直腸肛門の閉塞感あるいはつまった感じ
e. 排便の25パーセント以上に用手的に排便促進の対応をしている(摘便、骨盤底の圧迫等)
f. 自発的な排便が週に3回未満
2.下剤を使わずに軟便になることは稀であること
3.IBSの診断基準を満たさないこと
少なくとも6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は上記の基準を満たしていること

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*BSFS;Bristol Stool Form Scale


RomeⅣにもとづく機能性便秘の概要

ご存じの通りRomeⅣには、診断、検査、治療に至るまでの概要も示されている。まずはここから機能性便秘の概要を眺めてみたい。

機能性便秘のリスク因子には、女性、カロリー摂取量の減少、加齢がある。
   疫学データや研究報告などを見る際には、そもそも機能性便秘についての報告が少なく、多くは慢性便秘についての報告であり、必ずしも機能性便秘の厳密な診断基準を満たしているとは限らないことに留意する必要がある。


臨床的評価
最も頻繁に見られる症状;いきみ(79%)、硬便(71%)、腹部の不快感(62%),膨満感(57%),排便回数の減少(57%),残便感(54%)。
必要ならば排便回数や毎日の便の重さ(< 35g/d),結腸通過時間や肛門直腸機能を測定する(検査は下剤を使用していないときに行うべきである)。
機械的閉塞や薬剤性そして全身性疾患に伴う便秘など二次性便秘の原因は除外しなければならず、特に新たに発症した便秘には注意を要する。
実際に最も頻度の高いのは、結腸または直腸の機能障害に基づく便秘である。

慢性便秘は大きく3つのカテゴリーに分けることができる。
① normal-transit constipation 
② slow-transit constipation 
③ defecatory or rectal evacuation disorders

結腸通過時間はBristol Stool Form Scale;BSFSを使って見積もることができる。
機能性便秘の症候基準を満たす一部の患者では、結腸通過時間が遅い。同様に排便協調運動障害が併存する場合もある。症状の原因となる器質的あるいは代謝的異常がない慢性便秘は全て機能性便秘に包括される。

機能性便秘の診断には、次の5つを用いる。
  1. 病歴
  2. 身体診察
  3. 最小限の臨床検査
  4. 大腸内視鏡あるいはその他の利用可能な検査
  5. 病態生理学的に便秘を評価するための特別な検査

1. 病歴聴取
有症状期間、排便頻度、腹痛や膨満感などの随伴症状の有無、便の性状や大きさ、排便時のいきみの程度を含める。意図しない体重減少(> 10%/3ヶ月)、直腸出血(痔出血や裂肛の明確な証拠がない)、大腸がんの家族歴(あるいは家族性ポリポーシス症候群)などの危険な特徴は必ず聴取する。慢性経過が機能性腸障害を示唆する一方で、便秘の新たな出現は器質的疾患を示唆する。

2. 身体診察
中枢神経障害を除外する。
腹部の張りや結腸内の硬便貯留、腫瘤の有無を確認する。
安静時と、排便時に息んだ後での両方で、陰部を観察する。
直腸の診察もしっかり行う。直腸診では宿便や肛門狭窄、直腸腫瘤の有無をみる。
排便時の恥骨直腸筋と、または肛門括約筋の不適切な収縮が排便協調運動障害の原因である。排便協調運動障害を診断することが大切な根拠は、明確な病態生理学的な原因があり、特異的な治療への反応も良好であるからである。

3. 臨床検査
全血球計算、TSH、血清カルシウム測定

4. 大腸内視鏡検査(50歳以上)
警告症状や大腸癌の家族歴を有する場合は早急なる実施を検討する。

5. 病態生理学的な原因検索
 相応の経験的治療に反応しない患者に対して行うべきものである。つまり対象は限られる。
放射線不透過性マーカー;結腸通過時間の測定
放射性同位体検査;
 エックス線検査よりも被曝量が少なく、より多くの情報を得ることができる。
Anorectal manometry(肛門括約筋反射を調べる検査)とバルーン排出検査;
 排便強調運動障害の診断に役立つ。
排便造影;
 解剖学的な原因の検出。例えば、典型的な排便協調運動障害を特徴づける恥骨直腸筋の弛緩不全や息みでの直腸肛門角の減少のほか、腸重積症、便貯留を伴う直腸瘤など。
筋電図と陰部神経潜時試験;補足検査。


生理学的特徴
いくつかの研究では便秘には家族内集積があることが示唆されているが、直接的な遺伝要因を支持するデータは希薄である。
小児の研究からの限られたデータではあるが、小児期の生活要因(食物繊維の摂取が少ないこと、水分摂取が少ないこと、便意を我慢すること)が、便秘の進展にひと役買っている可能性がある。食物繊維を多く摂取すれば、便秘のリスクが低減することを示した2つの研究がある。定期的な運動も便秘のリスクを大幅に低減する
小規模なRCTで示されているのは、脱水のない人が飲水量を増やすメリットはない
結腸通過時間の検討では予想とは異なる結果で、結腸通過時間が遅延している人もいたが、その他の人は通過時間に異常を認めなかった。通過時間が遅れる人は、関わる結腸の区域によりバリエーションが存在する。機能性便秘のほとんどの患者では、直腸定圧検査で内臓過敏の証拠はない。結腸通過時間が遅延している患者のなかには、自律神経機能不全、筋層や粘膜下層の形態学的変化や神経伝達物質(すなわち、VIP、NO、5-HT)の低下が示されている人もいる。結腸通過時間遅延型の便秘で結腸切除を受けた患者の切除標本の共焦点顕微鏡検査と病理検査では、Cajal介在細胞の数が減少していることが示されている。


心理社会的特徴
特異的な心理的特徴や性格はないが、性格やストレスそして早期のトイレ訓練によって、便秘の訴えや便の排出、腸運動障害は影響を受ける可能性がある。ひどい便秘を訴えるが結腸通過時間が正常である人は、心理的苦痛が増し、排便の頻度を誤って認識していることが多い。便秘への行程は人生の早い時期に始まり、便意を意図的に我慢すると、排便頻度が減り、重量が増え、そして通過時間が長くなる。


治療
まず、患者教育から開始し、投薬はむしろ便秘の原因になったり、便秘を悪化させる可能性があるので避ける(処方、市販薬、その他)。適切な量の食物繊維を含んだ食事や、朝食あるいは夕食後に決まった入浴時間を設けること、足台で足を持ち上げたり、地面より低い便器を使用するように促す
 それでも症状が続く場合には、警告サインがなければ経験的治療を導入する。それでもうまくいかなければ(4から8週間後)、原因を同定し最も適切な治療を始めるために生理学的検査を検討すべきである。

経験的治療はまず食物繊維の補充から開始する。
   不溶性、非発酵性食物繊維は、便の体積を増加させ、分泌と蠕動を直接刺激することで通過を促進する。可溶性で、より発酵した形態の食物繊維は、親水性の特徴と発酵による浸透性効果を介して通過を促進する。
推奨される食物繊維摂取量は20〜30g/日であるが、容量依存性に腹部膨満感や張り、鼓腸を認め、忍容性やコンプライアンスに支障が出る。
結腸通過時間が高度に遅延しており、かつ/または排出障害を伴う場合には、食物繊維では改善しにくい

 繊維療法不成功例への治療選択について検討した前向きRCTはない。しかし、安全性やコストそして効果の面から、浸透圧性薬剤がしばしば用いられる。
浸透圧性下剤(すなわちラクツロース、ラクチトール、マンニトール、ソルビトール)
   小腸で吸収されず、水と電解質の分泌を引き起こし、結果として便の粘稠度を低下させて二次的に腸蠕動に影響する便の容量を増加させる。
・副作用には容量依存性に腹部の痙攣や腹部膨満感がある。
PEGは、6ヶ月間の質の高いRCTで評価されている。PEGは、成人でも小児でもプラセボとラクツロースよりも優れている。副作用は張り感と下痢。

塩類下剤(クエン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸ナトリウムやリン酸二ナトリウム)
   水分を小腸と大腸へ移動させる働きがある。
・効果を評価したRCTはまだ存在しない。
高齢者では注意して使用しなければならず、腎機能障害を伴う場合は避けるべきである。

刺激性下剤(ジフェニルメタン誘導体すなわちビサコジル、ピコスルファートナトリウム、それからアントラキノン誘導体すなわちカスカラサグラダ*、アロエ、センナ)
   水分吸収を抑え、腸管運動を刺激し、プロスタグランジンを放出する。
  *カスカラサグラダ;クロウメモドキ属の植物で乾燥樹皮を下剤として用いる。
・慢性便秘での幾つかのRCTが、ビサコジルとピコスルファートナトリウムで、排便頻度やその他の便秘関連症状に対して臨床的有用性を示している。
・最も頻度の高い副作用は腹痛と下痢。

 慢性便秘の症状改善に有効な2つの分泌促進薬がある。
lubiprostone(24μg、1日2回食中)は、排便頻度や便形態、息みやその他の便秘症状を改善する。最も頻度の高い副作用は吐き気と下痢。
linaclotide(145μg、1日1回)も同様に効果的であり、最も頻度の高い治療関連副作用は下痢である。もう一つのグアニル酸シクラーゼCアゴニストであるplecanatide(3mg、1日1回)も、機能性便秘に効果的である。

 開発中のelobixibatは、回腸胆汁酸輸送体を阻害する非吸収性の小分子であり、慢性便秘患者の排便頻度やその他の便秘関連症状を改善する。最も多く報告されている副作用は用量依存性の腹痛と下痢である。

 5-HT4受容体作動薬は、蠕動を刺激して腸管通過を促進する。
prucaloprideは、ジヒドロベンゾフランカルボキサミド誘導体で、他の5-HT4作動薬と比較して優れた選択性を有する。1-4mg/dayで、排便頻度や便形態、息みなどの慢性便秘症状を改善することが複数のRCTで示されている。最も頻度の高い副作用は頭痛、吐き気、下痢で、初期治療から24時間以内に起こる傾向があり、しばしば一過性である。
   *tegaserodは、排便頻度やその他の便秘関連症状を改善する効果が認められたが、心臓血管系の副作用が疑われ、2007年に米国やその他の市場から姿を消した。

・プルーン(50gあるいは大まかに6つ、1日2回)と麻種子エキス(7.5g、1日2回)は、排便頻度と便秘の重症度を改善した。

・5つのRCTに基づいた1つのシステマティックレビューでは、プロバイオティクスが慢性便秘患者の排便頻度を増やして便形態を改善するかもしれないと結論づけられている。検討された微生物は、Bifidobacterium lactis DN-173 010、Lactobacillus casei Shirota、Escherichia coli Nissle 1917など。

参照文献
Gastroenterology 2016  vol.150,No.6 p1399-1402 

 もうお腹一杯ですが、便秘の話、まだまだあります・・・続きは次回へ。


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